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東京高等裁判所 昭和31年(ネ)127号 判決

東海信用組合

埼玉銀行

事実

控訴人安部栄三郎は、本件手形は東海信用組合営業部長の職にあつた訴外吉田男三郎を介して訴外株式会社東商取締役であつた重原薫に割引仲介を依頼し、その目的のために一時寄託して置いたものである。ところで右重原薫はさきに右吉田の紹介で訴外東京小型自動車株式会社の社長紅野某を知り、前記東商と右東京小型自動車株式会社との間で手形取扱を開始したが、その後東京小型自動車株式会社が倒産し、その結果東商は二百万円位の損害を受けたので、右吉田は道義上の責任を感じて金四十五万円を東商に賠償したことがあつたところから、前記重原薫は割引のために預つたにすぎない本件手形を、約束の手形割引をしないまま、後日になつて突然前記債務に充当すると称して第三者たる被控訴会社に譲渡した如く装い、被控訴会社の名において本件手形訴訟を提起したものである。而も前記割引の委託を受けた右重原薫は株式会社東商の専務取締役であり、且つ被控訴会社の取締役社長の地位にあるものであるから、被控訴会社は手形債務者である控訴人を害することを知つて本件手形を取得したものであること明らかである。よつて控訴人には本訴請求に応ずる義務はないと述べた。

被控訴人高崎繊維工業株式会社は、本件手形は訴外株式会社埼玉銀行が満期に支払のため支払場所に呈示して拒絶せられたのを、支払拒絶証書作成の上控訴人においてこれを受け戻し、よつて本件手形の所持人となつたものであるから、被控訴人は裏書人である控訴人に対し右支払のなかつた手形金六十万円及びこれに対する年六分の割合による法定利息の支払を求めると述べた。

理由

証拠を綜合すれば、次の事実を認めることができる。すなわち、控訴人はかねての知合で当時東海信用組合の営業部長をしていた訴外吉田男三郎に対し、本件手形の割引方を依頼し、右手形に白地裏書をしてこれを同訴外人に手交して置いたところ、右訴外人は同信用組合では控訴人とは取引が浅いからかかる金額の手形の割引をすることはできないが、自分の知つているいる他の取引先に割引を依頼してやると称して右手形を預かつた。

これより先、東海信用組合と訴外株式会社東商との間に手形取引があり、右吉田男三郎と東商の代表取締役重原春夫とは個人的にも知合であつた関係から、右重原春夫は東商振出の手形等六枚合計金二百万円の約束手形を右吉田男三郎に交付してその割引斡旋方を依頼してあつたところ、吉田はこれを他に融通して割引金を交付せず回収不能となつた結果、その一部を弁償したのみで、残額金九十余万円については解決するに至らず、右重原春夫から厳重な督促を受けていた。

右のように前記吉田男三郎は重原春夫から前示債務の解決方を迫られていた折柄、たまたま控訴人から割引斡旋のため本件手形の交付を受けたのを奇貸とし、事情を告げずに東商の代表取締役重原春夫に前示債務の支払のため同控訴人の白地裏書のままこれを譲渡し、被控訴会社は東商に対する売掛代金債権の弁済として、東商からその裏書を経ずに該手形を取得したものであつて、控訴人の主張するように、前示吉田男三郎が割引のため本件手形を交付した相手方であるという東商の重原専務というのは、被控訴会社の代表者重原薰ではなく、実際は同人の義弟重原春夫であり、被控訴会社としてはもとより、右東商の代表者重原春夫としても、前示手形の裏書人である控訴人と右吉田男三郎との間の手形授受の関係については何ら事情を知らなかつたものである。

以上のとおり認められるのであつて、これらの認定事実よりすると、被控訴人は本件手形の善意の取得者であること明らかであるから、控訴人に対し本件手形金六十万円とこれに対する年六分の割合による法定利息の支払を求める被控訴人の請求は正当であり、これを認容した原判決は相当であるとして本件控訴はこれを棄却した。

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